二階堂製麺所だより
YUI 2022 SUMMER
ゆい Vol.6
結う人をめぐる旅
第六回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人とのつながりや想いが結ばれて生まれる創造性を大切にしています。地域資源を使った食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが、関係性を 結わえる人々 をご紹介。
今回は宮城県登米市で百年以上にわたって味噌醤油づくりを続ける醸造元を訪ねました。
洋風の様式も取り入れた造りが珍しい商蔵は、昭和初頭の建築。敷地内には明治から昭和前期に建てられた蔵や表門が立ち並び、うち9つが登録有形文化財に認定されている。
変わるもの、守るもの。
暮らしに寄り添う蔵の歴史。藩政期の商家や武家屋敷、明治の洋風建築の町並みが残る登米市登米町。この町で、百十三年前から味噌や醤油の醸造を続けるのがヤマカノ醸造株式会社です。醸造業の始まりは明治四十二年。「当時は『鈴彦商店』として両替商や和服の仕立、石瓦の販売など多角経営を行っていたそうです。醸造業はそのひとつで、きっかけは麴屋さんからお嫁さんを迎えたこと。それが私の祖母になります」と話すのは五代目の鈴木彦衛さんです。戦後、医薬品販売と醸造業を営んでいた鈴彦商店に転機が訪れたのは昭和三十年代のこと。当地きっての豪商·山田家が農地改革によって手放すことになった醸造蔵を、その経営とともに引き継いだのです。同様に櫻井醸造からも醸造蔵を継承すると、昭和三十四年に醸造部門を分離し『ヤマカノ醸造株式会社』を設立しました。
地域の歴史を積み重ねた蔵とともに、続けてきたものづくり。そこにはいつでも人びとの暮らしがありました。戦後の物資が乏しい時代、「美味しい調味料を多くの人に」と造り始めたのが混合醤油。高度経済成長期の遠洋漁業で岩手や宮城の漁師たちの船上の食事を支えた優しい味は、今でも地域に親しまれています。一方で、生活スタイルの多様化や健康志向の高まりによって醸造会社として急激な変革を求められたとのこと。鈴木さんが社長となった二十年前、生産の八割は味噌醤油でしたが、今やその割合は二割程に。大半を占めるのはつゆやタレの製造だといいます。
鈴木社長が手にするのは、今では珍しい焼き物の醤油瓶。鈴彦商店時代の貴重な品。
昨年から見学を開始した蔵は、さらなる活用に向けて改修計画も進行中。醤油樽で作った円卓からは今も塩が染み出す。
移りゆく時代のニーズを受け止めながら、社長就任時から取り組むのが地元産の原料を使った商品開発です。「登米は食材の宝庫。米どころですし、意外に海も近い。山のものも海のものも美味しいんです」と語るとおり、登米産の米と大豆で仕込む『登穀味噌』や、宮城県産のゆずを使った『旨塩ぽん酢』など味自慢の商品を数々開発してきました。そうした商品もすべて、ベースとなるのは自社醸造の味噌醤油。培った発酵技術が新たな美味しさを生み出しています。
先代である父の訓示で、青年時代を大阪や東京で過ごしたという鈴木さん。登米に戻った二十七歳の心境を振り返り「正直東京にいたかったですね」と笑いながら、こう続けます。「でも帰ってきたら、故郷にこんなにいいものがたくさんあったんだって気付いたんです。自然が豊かで、歴史も文化もある。その発見が地元食材を使ったものづくりのきっかけです。蔵の建物も、交流の場としてこれから活用していきたいですね。先人が伝えてきた味噌醤油を引き継がせていただいているので、それを生かして地域の方やお客さまにもっと喜んでもらえるようなことができたらと思っています」日本人の舌が憶えるうま味。
確かな醤油の味が、料理人の技を支える。今回は『麺や文左 登米本店』総料理長の安部が同社を訪問し、鈴木社長と醤油談義に花を咲かせた。
地域の食に寄り添うヤマカノ醸造。その味は二階堂製麺所にとっても無くてはならない存在です。直営レストラン二店舗で使用するのは、同社の本醸造濃口醤油。『麺や文左 登米本店』総料理長の安部はたしかな味と安定した品質に信頼を寄せます。「私たちが醤油屋さんに求めるのは、一定のレベルの品質を保ってくれることなんです。一定の塩分濃度、色合い、質。これが一番大事。麺つゆから刺身醤油、焼鳥のタレまで、料理人は独自のレシピを持っています。土台となる醤油の味が一定でなければ、自分の味を作ることはできないのです」
これは 生き物 を相手にする醸造元にとって避けては通れない挑戦ともいえます。安部の言葉にうなずきながら、鈴木さんは語ります。「酵母や微生物が活発に働くのは25℃から30℃、気温が低い季節は休眠するんです。だからお酒も醤油も味噌も、夏と冬ではできるものが違う。それでも同じ味を造り続ける、というのが我々の目指すところです。出来上がった醤油を使う料理人の方に『うん、よし』と言っていただけることが目標ですね」。そのために、職人の技術と経験に基づく微細な調整を絶えず行い、顧客の声にも耳を傾けます。変わらぬ味を造るのは、自らが変わり続けるひたむきな姿勢。
「ヤマカノさんの醤油を使えば、どんな料理もきちんと味が決まる」という安部の言葉にその品質が表れます。文左の料理は和食を基本にした折衷料理。フレンチやイタリアンの手法も多様に取り入れます。そこで欠かせないのが醤油です。活躍の場は驚くほど多彩。うどんのつゆはもちろん、洋風煮込み料理から小豆あんを使ったスイーツまで、あらゆる料理の隠し味に醤油を使うといいます。「醤油には、醸造によって生まれるうま味がある。赤ワイン煮でもトマトソースでも、醤油が入ることで日本人の口に合う味になるんです。醤油は日本の食文化の根幹。やっぱり日本人は醤油が大好きですよ」
優れた醤油があるからこそ生まれる文左の味。さらに安部にはもうひとつの思いも。「地元産の醤油を使いたいですよね。その物語がひとつ加わることで、料理はより美味しくなりますから」。これに鈴木さんも「同じ地元の食品会社であり、登米ブランドの魅力を伝えたいという点で方向性を同じくしていることが心強いですね」と応えます。今回は和食を根底から支える醸造元と料理人の信念に触れることができました。これからの登米ブランドにより一層ご期待ください。『本場仙台味噌·醤油鑑評会』で味噌·醤油ともに最高賞を11回受賞した経験を持つヤマカノ醸造。「人間は酵母のお手伝いをするだけ」とは同社の職人の言葉。
レストランBUNZA 夏のお品書き
煎り米出汁つゆでいただく
手延べうどん『涼か』『涼か 煎り米出汁膳』
2,000 円税抜き(税込み2,200 円)昔ながらの「煎り米」を出汁つゆに使用した、手延べうどんの新しい楽しみ方をご提案。香ばしいつゆの香りと爽やかな細麺の味わいが、暑い季節にも食欲をそそります。桜エビの旨みが詰まったサクサクのかき揚げもご一緒にどうぞ。
まれにあふ
こよひはいかに七夕の
そらさへはるる あまの川かせ-伊達政宗-
香ばしい焙煎香とともに味わう
極細うどんのコシと旨み。仙台の夏の風物詩といえば、きらびやかな笹飾りがまちを彩る七夕まつり。二階堂製麺所の『レストランBUNZA』が店を構える一番町四丁目商店街でも、祭りの時期には色とりどりの飾りが風にたなびき、街ゆく人の目を楽しませてくれます。
仙台七夕の歴史は古く、藩祖伊達政宗公の時代には年中行事として取り入れられていたとのこと。織姫と彦星の年に一度の逢瀬に思いを馳せ、星空を見上げる正宗公の姿が、詠まれた歌からも伝わってきます。古くから仙台の人びとに親しまれた七夕ですが、現在のような華やかな姿になったのは昭和に入ってから。もとは家ごとに行う素朴な行事で、稲の開花期に近かったことから田の神を迎え豊作を祈る場でもあったそうです。
さて、この夏当店でご用意するのは、伝統的な米の調理法「煎り米」の香ばしい風味をまとわせたつゆでいただく手延べうどんです。古来、保存食として用いられてきた煎り米は、その名のとおり米を煎ったもの。料理では野菜の煮びたしの香り付けなどに使われることが多いこの食材を、今回初めてうどんのつゆの出汁として使用しました。煎り米は、よりコクが増すように米はあえて洗わず米ぬかがついたまま、焙烙に入れ弱火でじっくりと焙煎。こんがりとした煎り米が出来上がったら、出汁つゆへ投入します。沸かしたつゆに煎りたての米を入れると、じゅっと音を立てて香ばしい香りが広がります。そのまま置くこと一晩、煎り米の香りと旨みがじっくりとつゆに溶け出したら、米を取り出して完成です。
この特製つゆでいただくのは、つゆがよく絡む極細手延べうどん『涼か』。昨年発売した夏の期間限定麺で、今年は麺質を改良し、より一層美味しさが増しました。なめらかな細麺をつゆにつけ、するっとすすれば豊かな焙煎香が鼻を抜けます。つるりとした麺を噛みしめた時には、その細さに見合わぬコシの強さに驚くはず。じんわりと口の中に広がる麺の旨みに、あっさりとした鰹出汁の風味と煎り米のコクが重なります。小皿で添えるのは、出汁をひいたあとの煎り米。米の一粒一粒につゆの旨みが染み込み、薬味としてうどんと一緒にいただくと、また違った味わいをお楽しみいただけます。
駿河湾名物の桜エビを使ったかき揚げはさっぱりとしたうどんにぴったり。塩釜産の藻塩をつけて、揚げたてサクサクの食感をそのままどうぞ。涼やかな夏膳のおともには、煎り米によく合うキリリとした辛口の日本酒がおすすめです。
煎り米には、登米市南方で栽培された宮城のブランド米『だて正夢』を使用。お正月に人気だった『年明け招福うどん』にも使用したお米で、この夏の一品にもささやかながら皆さまの健康とご多幸を願いました。杜の都で涼を感じたいひと時に、ぜひお召し上がりください。レストランBUNZA
2020年、長い構想期間を経て仙台·一番町にオープンした二階堂製麺所の直営2号店。日本の麺文化·食文化を世界へ伝える発信地というコンセプトで作られました。洗練された空間で、仙台牛を使った手延べ麺メニュー、登米の郷土料理はっとなど、多様なメニューをご用意しております。アンテナショップも併設。
●営業時間
併設麺販売場 11:00~19:00
レストラン
ランチ 11:30~15:00(L.O.14:30)
ディナー 17:00~22:00(フードL.O.21:00、ドリンクL.O.21:30)
※日曜日はランチのみの営業となります。
●定休日
不定休
●TEL
022-797-3835
※コロナ感染状況により営業時間に変更がございます。
詳しくはHPをご覧いただくか、店舗までお問い合わせください。
半生極細手延べうどん
涼か
生まれ変わった極細手延べうどん
細さの中に秘めたコシ昨年、期間限定麺として発売した『涼か』が、さらに美味しくなりました。昨年の『涼か』に唯一足りなかったもの。それは温かい麺としていただくときのコシの強さです。
つるりとした舌触りを味わいつつ、一口噛みしめたときに感じるもちっとした弾力。コシはうどんの美味しさのひとつの指標といえるでしょう。それは極細うどんである『涼か』にとっても欠かせない要素。どんな調理方法でも美味しくいただける細麺をお届けするため、原材料から見直し、麺質改良に取り組んだこの一年。基本となる小麦は十種類以上の品種から新たに選び直し、宮城県産小麦『あおばの恋』との最適な配合比、それに合わせた熟成具合や温度湿度の管理など、一つひとつを見極めるために試作を重ねました。
絹糸のように繊細な麺は、茹でると弾力に富んだ質感へと変わります。細麺ならではのしなやかな食感、つるっとした舌触り、その中に秘めた強いコシ、そしてなめらかなのど越し。つゆとの相性も考え抜いた、絶妙なバランスを持つのが今年の『涼か』です。強いハリを持ちながら、細く延ばすことができるのは、「ねかし·のばし·より」の工程を何度も繰り返し、少しずつ生地を延ばしていく手延べの製法あってこそ。今回の改良で、麺を寝かせる時間は約二倍になりました。コシの素地となるグルテンが形成されるこの時間は、『涼か』にとって特に大切なもの。旨みの熟成も進み、麺のコシとともに美味しさも増しました。もちろん、温かい麺として調理しても味わいはそのまま。お中元にも大変おすすめです。今年は当製麺所の自信作で夏のご挨拶をお贈りしてみてはいかがでしょうか。冷たいうどんで涼を感じたい日にも、温かいうどんでほっとしたい日にもぴったりの新しい『涼か』を、ぜひご賞味ください。
『涼か』発売キャンペーン
より美味しくなった極細手延べうどん『涼か』。発売を記念して、レストランにて『涼か』のお料理をご注文いただいたお客様にBUNZA食事券500円分が当たる抽選をその場で行います。是非この機会にご賞味ください。
キャンペーン期間
2022年5月20日~ 2022年7月30日※本企画は二階堂製麺所BUNZA(仙台店)のみの開催です。
温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第六回
カケバ
「手延べ麺」の名を最も象徴する「延ばし工程」は、二本の麺棒に麺を八の字に掛ける「カケバ(掛巻)」から始まります。一見すると単純に巻いただけに見えるカケバ。しかし「巻き」や「小巻き」などの前工程で「撚り」といわれるひねりを加えた麺帯を、最後にもう一度撚りながら丁寧に八の字に巻きつけます。このカケバの撚りは人間の感じる麺のコシや舌触りに特に影響があり、いかに撚りを掛けるかが重要なノウハウ。例えば、当製麺所の「麦つるり」や「麦香る」などの平麺タイプでは、あえて撚りをやや抑制し、コシと舌触りを整えています。「延ばし」の前のこの「カケバ」には、麺職人の知恵と技術が隠れているのです。
巻かれた麺は三十分から一時間程度室で寝かせて熟成させ、本格的な延ばし工程に備える。
一見シンプルに巻いているように見えるが、少しずつ「撚り」が掛けられている。
お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
調理補助担当 只野 千恵子
文左で働くようになって8年目、盛り付けなどを担当しています。以前、手延べ麺の製造現場にいた経験もあるんですよ。コロナ禍ですが、最近はようやく休日中心にお客様が戻りつつあります。登米の美味しい食材を用意しております。時間の許す限りゆっくりお過ごしください。
BUNZA 仙台店
販売担当 高橋 誠子
オープンからショップでの物販を主に担当しています。心がけているのはお客様との心地よい会話です。「教わった食べ方、美味しかったよ」「こんなレシピも試してみたよ」などご感想をいただくこともあり、とてもうれしいですね。ご自宅用やギフト等お気軽にご相談ください。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.6 2022年 夏号】2022年6月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集:株式会社コミューナ デザイン:小林知博 取材・文:寺崎靖子・門馬祥子 撮影:佐藤正宏、千葉浩幸、金谷竜真、門傳一彦
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