二階堂製麺所だより
YUI 2021 SPRING
ゆい Vol.1
結う人をめぐる旅
第一回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人がつながり、結ばれて生まれる創造性を大切にしています。この特集では、地域資源を活用して食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが出会った、関係性を“結わえる人々”をご紹介します。今回は宮城県産小麦『あおばの恋』の生産者の方々にお会いし、生産秘話や農業への想いを伺いました。
伊藤さんの広大な麦畑(5月頃)の様子。青々と茂った小麦。生育状態の確認をする。
登米の穀物農業を支える小麦品種『あおばの恋』への挑戦。
遠く栗駒の山を望む広大な土地に青々と茂る小麦畑。生命力みなぎる緑色の小麦がさわさわと風に揺られる春の様子、また金色に色づいたふかふかの絨毯のような収穫期の夏の様子も、登米ではおなじみの田園風景です
当製麺所の本社がある登米市は、仙台市から約70キロ北上した宮城県の北西部に位置します。起伏の少ない平坦な土地性もあり、豊かな水源に育まれた田園地帯が広がります。人口76300人ほどのうち、その1割の約8000人が農業に従事し、米の生産量、作付面積ともに県内1位を誇る米どころ。穀倉地帯として宮城県の食を支えています。今回は、手延べ麺で使用している国産小麦『あおばの恋』の生産者のもとを訪ねました
集まってくださったのは登米市豊島地区で農業法人を経営する千葉利広さん、伊藤悟さん、伊澤晃さん、今井章さん、の4名。穀物の専門家集団である彼らの主な生産穀物は米、大豆、そして小麦。中でも、『あおばの恋』は県の収穫量の約6割を豊島で生産しています。
左から、豊里地区で大規模生産を行う農家の千葉利広さん、伊澤晃さん、伊藤悟さん、今井章さん。
「『あおばの恋』という品種は2008年に推奨銘柄となり、2010年から種子の栽培と作付けを実験的に始めました」と伊藤さん。農地に何度も同じ作物を作ると土の栄養分が不足してしまうため、豊島地区では数種の穀物をローテーションで生育させる転作という農業の手法がとられています。米、大豆、小麦をひとつの農地に時期を分けて転作させるため、小麦の生産は必要不可欠。「米と小麦という組み合わせは絶対です」と今井さん。「以前はシラネコムギという品種を作っていましたが、生育も収量も安定しなかった」と千葉さんが続けます。「豊里では伊藤さんが先陣を切って種子栽培を始めてくれたから、その種子を分けてもらったり、作り方を聞いたりして栽培を始めることができた」とのこと。種づくりを先んじた伊藤さんは、「実入りが良く、熟期が早いという特徴を早い段階で掴むことができた。比較的栽培しやすい品種だということがわかり、安心して本格的に作付を始めました」と当時を振り返ります。
左/11月に種をまいてから3カ月ほどの麦畑。強い麦を育てるため麦踏の工程が必要。 右/県下一の穀倉地域・登米の田園風景
実は、生産者でも自分の作った小麦を食べられる機会は少ないのです。
驚いたのは、丹精込めて作った小麦を生産者が自宅で食する機会はほとんどないということ。「もちろん米は自家用があり、大豆も一部納豆にして自分達で食べますが、小麦は家で食べることがほとんどないんですよ」と伊澤さん。刈り取り後、すぐに出荷するため、手元には小麦が残ることがないのだとか。「だからね、マルニさん(当製麺所)で小麦を使ってもらえると聞いて嬉しかった」と伊藤さんが笑顔で語ります。「自分達が作ったもので商品ができ、それを誰かが食べてくれるというのは嬉しいですよ。昔から知っている地元の麺屋さんだからなおさらね」と目尻が下がります。
『あおばの恋』は硬質で粉にしやすく、優れた製麺適正があります。当製麺所もはやくから新品種として注目し、県産の素材と合わせ、地元の色を強く出した商品を開発することができました。
「豊里には畜産業が多いので有機堆肥が手に入りやすい。その意味では土作りに適した地域と言えます。今の環境や関わる方への感謝の気持ちを忘れずに良い作物を作り続けたい」と千葉さん。「基本をしっかりやれば良い結果ができると考えているが、昨今の気候の影響はそれを超えてくるから難しい」と、伊澤さんは今の農業の難しさについて語ります。「だからこそ臨機応変に対応しなければならない。足繫く圃場に通い、状況に合わせて手をかける。そうすれば自ずと次の作業が見えてきます」。
最後に、農業の未来について伊藤さんが語ります。「私たちが目指しているのは品質の向上。有機堆肥を導入して循環型農業を進めることもそのひとつ。常に生育状況から目を離しません。農業は三人三様。仲間とは情報交換しつつ互いに刺激を与え合える関係です。農業には後継者不足という課題もありますが、私たちの世代がより良いものを作り、世間から認めてもらうことで次の世代に新しい可能性が拓けると思っています」。
生産者の想いは、美味しさを追及しつづける当製麺所の理念に通じるものがありました。
金色に色づいた7月の麦畑も美しい。天候を見ながら、時には手に取って実を口に含んで食感を確かめて、刈り取りの時期を調整する。
麺や文左 登米本店
春のお品書き
季節の山菜天ぷらと
手延べうどん
今回は二階堂製麺所の直営レストラン『麺や文左 登米本店』より春のおすすめメニューをご紹介いたします。広々とした食空間で非日常の時間をお過ごしいただけます。
『季節の天ぷらと手延べうどん』 1,760円(税抜)
山菜の天ぷら盛り合わせとコラーゲン入りで一番人気の手延べうどん『花つるりん』のセット。出汁には、昆布、鰹節、鯖節のベースにみちのく鶏からとったスープを合わせました。
人気の秘密であるつるっとした食感をお楽しみください。
石走る
垂水の上の さわらびの
萌え出づる春に なりにけるかも
-志賀皇子 万葉集より
薄衣をまとった春の恵み
苦みと軽やかな食感のコントラスト
総料理長 安部茂雄
春の訪れを感じる時節。登米の里にも次々と春を見つけることができます。薄緑色に萌える山々、田畑の畦道にはオオイヌノフグリやつくし。梅の花の香りを楽しみ、桃の花の膨らみを見つけては、「あぁ、桜ももうすぐだ」と、春は小さな彩りを見つける度に不思議と心躍るものです。コロナ禍の昨今、季節の移ろいを肌で感じる機会も減り、寂しさを覚えることもありますが、この春はさまざまな対策を講じた上で、ぜひ五感で春を感じていただきたいと思います。
さて、二階堂製麺所の直営レストラン『麺や文左 登米本店』にも春が訪れています。この春の季節限定メニューは、『季節の山菜天ぷらと手延べうどん』。山の恵みをたっぷりと味わえる天ぷらの盛り合わせをご用意しました。春の恵みには、ふきのとう、タラの芽、こごみ、ウド、行者にんにくなど、その時、自信を持っておすすめした旬のものをご用意することにしました。時期によってはご紹介と異なる山菜をお楽しみいただけるかもしれません。お客様が来店された日にもっともおいしい山の恵みを揃えてお待ちしております。
ところで山菜特有のえぐみと苦味が、ポリフェノールに由来することをご存知でしょうか。植物が成長し外敵から身を守るために蓄えるえぐみや苦味が、人間が冬の間に溜め込んだ不要なものを排出するのに役立つのです。山の新芽にはβカロチンやカリウム、食物繊維が多く含まれ、実は栄養もたっぷり。天ぷらにすることで、アクが抜けてほっくりとした歯応え、苦味の中に独特の香りと甘みを感じることができます。当店では、薄い衣を何度も重ね付けし、さっくさくの食感に仕上げています。自宅では味わえない料理人の技をお楽しみください。
シンプルな料理にこそ、料理人の緻密な技や細やかな工夫、積み重ねた経験が生かされるもの。ご存知のとおり当店では、自社製の手延べ麺を召し上がっていただけるのはもちろん、素材の可能性を追及し、新鮮な一皿をご提供することに心を砕いています。コースには和洋折衷メニューが並ぶことも多く、和食の枠に留まらない料理の幅と奥行きを感じていただけるはずです。一方で、はっとや油麩などなじみの郷土料理については出汁や食材から改めて厳選し、ここでしか味わえない最高の味を引き出しています。
お客様のテーブルに提供されるまで、食材選びから調理法、盛り付けのひとつひとつの工程にしっかりと目を向け、妥協のない丁寧な仕事を心がけています。
麺や文左 登米本店
2011年、震災の年に地域の憩いの場を目指してオープンした当店は今年開業10年を迎えます。街道の麺茶屋として135年前に創業した当時からのポリシーを体現する当店。地域のお客さまのふれあいの場づくりがコンセプトです。眼前に畑を望む広々とした借景も自慢。ご家族やご友人と、時間を忘れてゆっくりとおくつろぎください。
●営業時間
昼11:00~15:00(L.O.14:00)
夜17:30~22:00(L.O.21:00)
●定休日
木曜
水曜と日曜は昼のみの営業
※営業時間については、日によって変更になる場合がございます。●TEL
0220-29-7227
半生手巻き手延べうどん
青葉の恋
宮城の恵みを凝縮した
無添加半生手延うどん
和紙風の袋を開けると、ふわりと優しい小麦の香りが鼻に届きます。袋から取り出してみると驚くことでしょう。うどんは一本のまま、まるで水引のように美しく、くるくると巻かれ、表面をよく見ると青葉色の縞模様が浮き出ています。1メートルほどで折り返された均一な出来の手延べ麺を、2,3箇所食べやすい長さで切って茹でていただきます。
半生手延べうどん『青葉の恋』は県産小麦『あおばの恋』を原料に、塩釜の天然塩である藻塩、宮城県産の桑の葉を使った、宮城の恵みを集めた手延べうどんです。『あおばの恋』という品種は、粘りや弾力性、滑らかさなど、麺に合う特性を持つように開発されていますが、私たちの商品開発当初はまだ改良の余地があり、麺を作っては仕上がりと食味を確かめ、小麦を扱う専門家として思いを込めて生産者へフィードバックしていました。麺開発は震災で一旦休止しましたが2012年に開発を再開、2014年の春にようやく完成しました。
また、うどん作りには塩も欠かせません。その塩には塩釜で造られた希少な藻塩を使用しました。ちょうどよい塩味が小麦の香りと熟成の旨味を引き出します。青葉色の正体は宮城県産の桑の葉。見た目に彩りを加えました。桑の葉を全体に練り込むのではなく、美しい縞模様が出るようにストライプ状に独自の製法で練り込みました。一見すると小さな違いのようですが、これも二階堂製麺所のこだわり。他にはないこだわりを大切に育てています。味はもちろんのこと、見た目にも徹底的にこだわります。
冷たくして召し上がると一層おいしく、桑の葉のストライプが見た目にも鮮やかな当商品。折返しのふしも実に美味。その食感や味わいの違いもぜひお楽しみください。
DATA
こし ☆☆
麦感 ☆
なめらかさ ☆☆☆☆
弾力 ☆
温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第一回
二階堂製麺所の手延べ麺は、5つの工程と12の作業を経て作られています。機械の無かった明治のころには、練り作業に足踏みを用いたり、今よりも大変な時間と労力をかけて麺作りが行われていました。現在は技術の進歩とともに、例えばミストで加水殺菌させる「戻し」などの新しい技法が生み出されています。さらに美味しく安定した品質を維持するために、常に研究と進化を目指しているのです。
温故「創」新。古きを温ねて新しきを創る。日本の伝統食である手延べうどんに対し、時代の最新の技術革新に挑戦し、かつては不可能だった半生で流通できる手延べ麺の開発に成功。「花つるりん」などの新たな看板商品が誕生しました。
※次号からは、工程の一つ一つについて、より詳しく紹介させていただきます。
お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
総料理長 安部茂雄
本店のオープン以来、うどんを切り口に、和食の枠にこだわらない多彩な食提案を心がけてきました。料理人として培った技術や感性、知識を活かし、妥協のない一皿をご提供いたします。
BUNZA 仙台店
ホール主任 伊藤ルミ子
BUNZAはゆったりとした空間が自慢なので、お客様がくつろげる雰囲気を心がけています。オープン1年の新しいお店だからこそ、新しい提案にチャレンジしてお客様をお待ちしております。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.1 2021年 春号】2021年3月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集・デザイン:株式会社コミューナ 取材・文:門馬祥子 撮影:津藤秀雄、千葉浩幸、金谷竜馬
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