二階堂製麺所だより
YUI 2021 SUMMER
ゆい Vol.2
結う人をめぐる旅
第二回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人がつながり、結ばれて生まれる創造性を大切にしています。地域資源を活用して食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが出会った、関係性を“結わえる人々”をご紹介。
今回は当製麺所のいのちともいえる手延べ麺の技と想いを継承する社内の造り手たちをご紹介します。
門干しの工程で行うはた架けは、麺をはたに吊るした状態で箸を使い、麺のくっつきをさばく。
混乱の時代を経ても変わらない食への志。
大切にするのは、時間を惜しまぬ追求の精神。
二階堂製麺所は、今から136年前に街道の麺茶屋として始まりました。人々が行き交う便利な場所にあって美味しい手延べ麺が気軽に食べられる店だったと伝わります。創業者の初代文左衛門のお客さまへのおもてなしと、手間をいとわずに美味しいものを追求する誠実さが評判を呼び、二代目、三代目と店は順調に継がれました。しかし、戦争の始まりによって手延べ麺の製造は一旦途絶えます。戦争が終わり、三代目が戻ったころには電力やモーターの普及によって製麺機や茹で機などが登場。機械で作られた麺が一般に広く普及し、当製麺所でも茹で麺を主流に製造するようになりました。ほどなくして生産体制の合理化が進み、事業は大きく拡大します。
そんな豊かな時代を迎える一方、先代である四代目の二階堂學は考えました。「麺屋として本当に美味しいものを造りたい」と。過去を辿ると初代が心血を注いだ手延べ麺に行き着きますが、造り方は、口伝えとわずかな資料が残るのみ。手打ちとは異なり、製造に技術と時間を必要とする手延べ麺。生地を麺棒で四方へ延ばし、平らに延して一本ずつ包丁で切る手打ち麺に対し、包丁を使わずに一本の細い麺になるまで生地に撚りをかけて手で延ばす手延べ麺。グルテンの特性を熟知しなければならず、環境整備や手先の技術も不可欠です。四代目は手延べ麺の奥深さに改めて魅せられ、初代の味を再現するために手延べ麺のルーツである小豆島へと渡ります。そこで精魂を傾け技術を習得。東北に伝わる昔ながらの製法に小豆島の技術を取り入れ、さらにコシと弾力を生む独自の熟成乾燥工程を付加した新しい手延べ麺を完成させました。今から30年ほど前のことです。
復活した手延べの技術は、当製麺所のアイデンティティとして生き続け、時とともにその専門性は高まり、深化しました。今回は手延べ麺の造り手として技術を受け継ぎ、製造の中核を担う四名に話を聞きました。千葉真江さんは、「私たちは一軒の麺茶屋から食品会社へと成長し、合理的なライン生産体制を構築する一方で、手延べ麺については逆の方針を持ち続けています。生地を寝かせ、グルテンが粘りを発揮する時を待ち、よりよい熟成を待つ。この美味しさを求めて 待つ ことが、私たちの手延べ麺造りに不可欠な要素。先代が復活させた手延べ麺製造の時間を惜しまぬ追求の精神が、食品会社としての私たちのものづくりの原点です」と語ります。手延べ麺は、原料の仕込みから三日かけて造られている。均一な太さに仕上げるのはまさに職人技。
昭和29~30年頃
左から製造部統括課長の千葉真江さん、係長の矢内崇義さん、岩渕由紀さん、沼倉美津紀さん
気の抜けない工程ばかりだからこそ
完成したときにものすごい達成感がある。
岩渕由紀さんは、担当になって6年。「配属して最初の仕事は手延べ麺の箱詰めや包装でした。包装の仕方、ラベルの貼り方など一つひとつの作業を丁寧に行います」。
手延べ麺のセクションでは、20ほどの製造工程〔生地作り、成形、熟成、乾燥など〕から包装、箱詰め、発送に至るまで一貫して行います。
「手延べ麺はギフトのご利用が多いので、私たちは贈る方と受け取られる方の関係性を良好に繋ぐ役割を担っているのです」と、千葉さん。「胸を張ってお客さまにお届け出来る商品を作るため、まずは一人ひとりにそれを理解してもらい、責任を持って担当してもらいます」。
当製麺所の手延べ麺は現在9種類。業界でも珍しい半生麺を開発しており、この夏にもまた新商品が売り場に並びます。矢内崇義さんは、「開発は社内で行います。新商品は多くの失敗を繰り返してやっと出来上がりました。開発はいつも若手も含めスタッフ全員で取り組みます」と話す。スタッフに求められるのは、現行の商品や製造工程のことだけでなく、麺作りの専門知識も。
入社2年目の沼倉美津紀さんは、「岩渕さんは手延べ麺の知識が豊富で、製造工程のことも手作業のことも何でも知っている憧れの先輩。いつ何を聞いてもすぐに答えてくださる。私もはやく岩渕さんのようになりたいです」と語ってくれました。
初代の思いを受け継ぎ、復活を遂げた当製麺所の手延べ麺。ここで育った若い力が共鳴し、手延べ麺のさらなる進化を後押ししてくれそうです。『北の手延べ麺』の食文化発信を担う立場として、これからも時間を惜しまず美味しさを追求してまいります。
巻きの作業では、乾燥を終えた麺を一つひとつ素早く幾重にも巻き上げる。
レストランBUNZA 夏のお品書き
三陸産ウニと手延べ麺「涼か」
昨年仙台市一番町にオープンした二階堂製麺所の直営レストラン『レストランBUNZA』。中央にゆとりのある大きなカウンターを配し、ライブキッチンで調理の臨場感を感じられる食環境をご提供しております。洗練された空間で味わえるこの時季ならでは限定メニューをご紹介いたします。
『三陸産ウニと手延べ麺のセット』
3,080円(税込)山菜の天ぷら盛り合わせとコラーゲン入りで一番人気の手延べうどん『花つるりん』のセット。出汁には、昆布、鰹節、鯖節のベースにみちのく鶏からとったスープを合わせました。
人気の秘密であるつるっとした食感をお楽しみください。
道の辺に
清水流るる 柳陰
しばしとてこそ 立ちどまりつれ
-西行法師 新古今和歌集-
涼を求めて都会のオアシスへ
個を尊重した非日常の食空間。
仙台・定禅寺通りの夏といえば、大きなケヤキの茂った青葉とそこから溢れる木漏れ日の美しさ。今年の夏も暑さが厳しくなりそうですが、定禅寺通りでは代名詞の大ケヤキが、強い日差しと熱波から私たちにつかの間の涼を運んでくれそうです。
西行法師のこの歌は、「暑い夏の道すがら、小川が流れる柳の木陰ですこしだけ休もうとしたけれど、あまりに心地よくて思いのほか立ち止まってしまったなぁ」という情景を歌ったものです。
二階堂製麺所の『レストランBUNZA』は、昨年2月、定禅寺通の三越前にオープンいたしました。本社のある登米の『麺や文左』に次いで二つ目の直営レストランであり、仙台市内には初進出となります。街なかを選んだのは、この店を、宮城の食文化を世界へ発信する拠点とするため。麺メーカーとして育んできた麺文化、さらに地域の食材と掛け合わせた食文化を、胸を張って世界中の皆さまにご紹介するために、日々研鑽を積み、工夫を凝らしています。
広々とした店内は、オリエンタル調でシックな雰囲気。大きなカウンターを中央に設え、料理人たちの手際の良い調理姿、立ち上る湯気や手延べ麺の茹で上がりなど、活気のあるキッチンの様子はまるでステージのような臨場感を感じられるはずです。カウンターテーブルには奥行きを設け、ゆとりが感じられるように配慮しました。また、隣席のお客さまとのソーシャルディスタンスも十分。「さあ今日は美味しいものを食べよう」と思った日に、おひとりさまでふらりと来店されても、料理だけに集中できる食空間を提供しております。
さて、6月から旬を迎える三陸のウニ。リアス式海岸の豊穣な海で育ったウニはこの既設の名物でもあります。この夏『レストランBUNZA』からは、旬の天然ウニと手延べ麺の組み合わせをご提案いたします。実は昨年から試行錯誤してやっとお披露目できる季節限定メニュー。ウニと麺が互いの良さを引き出し合える、ちょうど良いバランスを模索いたしました。両者を引き立てるのはさっぱりとしてクセの少ないマグロ出汁のつゆ。うまみが強く、やさしい味わいが特徴です。ウニの濃厚な味を邪魔せず、やさしくうまみで包みます。まずはウニだけ、まずは麺だけをそのままお召し上がりください。その後、麺の上にウニとわさびをのせ、少量のつゆに付けてどうぞ。試行錯誤した理由がおわかりいただけるはずです。濃厚な味わいのウニに合わせ、ドリンクは冷えたシャンパンかスパークリングワインがおすすめです。
夏の日の散策やお買い物の小休憩に。心地よいひと時をもたらす食のオアシスとしてご利用ください。
レストランBUNZA
2020年、長い構想期間を経て仙台・一番町にオープンした二階堂製麺所の店内レストラン。
宮城の食材を使った日本の麺文化・食文化を世界へ伝える発信地というコンセプトで作られました。ホテルのような洗練された空間で、仙台牛を使った手延べ麺メニュー、登米の郷土料理はっとなど、多様なメニューをご用意しております。アンテナショップを併設。
●営業時間
昼11:30~15:00(L.O.14:30)
夜17:30~20:00(フードL.O.19:30、ドリンクL.O.19:00)
併設麺販売場 11:00~19:00
※状況により営業時間を変更させていただいております。●定休日
不定休
●TEL
022-797-3835
半生手巻き細手延べうどん
涼か
宮城の恵みを凝縮した
無添加半生手延うどん
食が細くなりがちなこの季節に、ぜひお試しいただきたい手延べの細麺が新しく登場いたしました。
『涼か』は、二階堂製麺所の手延べ麺の中でもっとも細い麺です。素麺とひやむぎの中間の太さにあたります。当製麺所にとって大きなチャレンジとなった細麺造り。大変難しい技術を必要とし、開発は2年がかり。昨年夏の販売には間に合わず、今年やっと皆さまにお披露目できることとなりました。
開発時に苦労したのは、生地の固さ。麺を細くしてもちぎれないグルテンの粘度を見極め、文字通り何百という試作品を経て、やっと適する生地を完成させることができました。生地は、ねじりながら螺旋状に撚りをかけて細く延ばし、乾燥の工程でしっかり熟成させることで、うまみやコシ、弾力が生まれます。
清涼感のあるブルーのパッケージから麺を取り出すと、その長さに驚くかもしれません。『涼か』の麺は1本3m以上。麺束をお好みの長さに切ってから(目安として4〜5ヶ所を切る)茹で湯に入れてください。茹で時間は2分ほど。短時間で茹で上がります。冷水で水洗いし、麺をしゃきっとさせたら、お好みのつけ汁でお召し上がりください。つるりとしたなめらかな舌ざわりで、手延べならではのしっかりとコシがあり、シコシコと食感も良い。噛むほどに小麦の香りとやさしい甘みが口に広がります。つゆとの絡みも良く、飽きのこない細麺になりました。この夏に自信を持っておすすめしたい、いち押し商品です。ご自宅用にもギフトにも。ぜひ一度お試しください。DATA
こし ☆☆☆
麦感 ☆☆☆☆
なめらかさ ☆☆☆☆☆
弾力 ☆☆☆
◎1食 90g 486円(税込み)
◎さば出汁セット つゆ・七味付き
4食セット 3,240円(税込み)
6食セット 5,400円(税込み)
10食セット 8,640円(税込み)
※アレルゲン:一部に小麦・ごま・大豆・さばを含む
賞味期限:製造から120日保存方法:直射日光、高温多湿を避けて保存してください。アレンジレシピの一例。つゆに絡みが良いのでスープでいただくのもおすすめです。
温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第二回
練り
「練って丸めて切り出して」という麺造りの基本は変わらぬものの、平成に入るころ大きな技術革新があったと、40年間麺造りをしているベテラン職人は言います。かつて「こね」と「足踏み」で大変な重労働だった「練り」工程が、現在では特別なミキサーが導入され、安定した麺生地が練りあげられるようになりました。それにより、「粉」やその他の副原材料等の「素材選び」に集中でき、より精密に、より繊細に麺体を調整できるようになりました。
当製麺所は麺業界の中でも早い時期から新しい創意工夫を進めて参りましたが、それは単なる新しい技術の導入だけではなく、伝統製法を経てきた職人たちだからこその、理想の麺造りを追求していく挑戦でもあったのです。お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
ホールスタッフ 菊地澄美子
当店は街道から少し入ったところにあるので、クルマの音もなく鳥のさえずりが聞こえるほど。タヌキやキツネが来ますし、冬は渡り鳥もやって来ます。四季折々の自然が楽しめるこの場所で、ご来店をお待ちしています。
BUNZA 仙台店
副料理長 齋藤太志
普段から神経を研ぎ澄ませ、最良の状態で料理に臨むようにしています。今話題の「全集中」ですね(笑)昨年2月オープン間もなくコロナ禍になってしまい苦労しましたが、だからこそチーム作りを心掛けてきています。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.2 2021年 夏号】2021年6月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集・デザイン:株式会社コミューナ 取材・文:門馬祥子 撮影:yosikata、千葉浩幸、金谷竜馬
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