二階堂製麺所だより
YUI 2022 SPRING
ゆい Vol.5
結う人をめぐる旅
第五回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人とのつながりや想いが結ばれて生まれる創造性を大切にしています。
地域資源を使った食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが、関係性を 結わえる人々 をご紹介。今回は宮城県塩釜市で、地域に伝わる古代の藻塩造りを営む生産者を訪ねました。
古くは縄文時代から塩造りが行われていたという塩釜。なお、公用文での表記は「塩竃」となる。
製塩用のかまどの意味で、ここにも塩造りの歴史が感じられる。神代から現代へと紡がれた記憶。
悠久の時を超える「塩の聖地」復活の物語。二階堂製麺所が本社を置く登米市から、南へ約50キロ。宮城県のほぼ中央、島々が美しい松島湾をのぞむ沿岸部に、港町・塩釜市はあります。その地名に見てとれるように、古くから塩造りが行われてきた塩釜の地。塩土老翁神が製塩法を教えたとの伝説も残る塩の聖地です。しかしながら、製塩技術の近代化や環境の変化とともに塩造りは衰退。塩釜での古代の製塩を今に伝えるものは、塩釜神社の末社・御釜神社で行われる『藻塩焼神事』を残すのみとなっていました。
このいにしえの塩造りを現代に復活させたのが、2007年に設立された合同会社『顔晴れ塩竃』です。きっかけは町おこし。同社で製造総括を務める製塩職人、及川文男さんは当時を振り返りこう語ります。「地元の若手起業家が開いたワークショップで、塩釜に何が必要か、何が足りないんだって話し合った時に、“ 塩でしょ”って。要は、塩の聖地でありながらご当地の塩が造れていない、ということ。私もそのとき地元産の塩が欲しい一人だったんですよね。水産加工業をしていて、味付けに塩を使うから。その塩をよそから仕入れていることに、どこか複雑な気持ちを持っていた」
若手の思いに共感した及川さんは、塩釜での塩造り復活を決意。こだわったのは藻塩焼神事を踏襲する塩造りです。日本における製塩の原初の姿である藻塩焼き。さらに塩釜は、各地に製塩を伝えた塩土老翁神が最後に定住したとされる場所。その土地で、古来の塩造りを行ってこそ「塩の聖地復活」といえる。強い信念のもと、有志とともに塩造りの研究を重ねた及川さんは、自身の水産加工場の一角を塩造りの工房に改築。2009年から本格的に藻塩の生産をスタートしました。※藻塩とは海水と海藻で造る塩のこと。海藻を煮込んだり焼いたりと製法はさまざま。『塩竃の藻塩』はホンダワラでこした濃度の高い海水を煮詰めて造られる。
「うどんは小麦粉と塩と水しか使わない。そこで塩釜のいい塩を使わせてもらえるのは本当にありがたい」と話すのは、当社開発部企画開発統括課長の千葉。
左/温度や湿度などの条件を揃ったときだけ現れるという塩の結晶。きらきらとした輝きはまるで宝石のよう。 右/松島湾の栄養豊富な海で育ったホンダワラ
極めた塩のうまみ。
塩釜の藻塩が、新たな縁を紡ぐ。工房に足を踏み入れると、目を引くのは塩釜石で組まれた巨大な竈。もうもうと立ち昇る白い湯気はどこか神秘的で、神事の厳かさを思わせます。塩造りには、松島湾からくみ上げた海水、松島湾で採れた海藻ホンダワラと、地元産の原料のみを用います。「これは絶対にこだわらないとだめ。でないと 藻塩焼神事にならって という言葉は出てこない」と及川さん。ホンダワラの上から海水を注ぎ、竈の火でじっくりと煮詰めていく製法も神事のまま。しかし、大釜での塩造り、人の手のみで行う作業は並大抵ではありません。海水を煮詰める時間はなんと十時間以上。そしてこのとき、伝統にならうということ以外にも、及川さんには譲れないものがあります。「この塩釜の地で、神様が伝えた方法で塩を造ることはそれだけでも価値があると思う。でも、それで済むかというとそうじゃない。やっぱり いいもの を造らないと。食い物を造るからには、おいしいものを造んなきゃいけない」。手間をいとわない仕事がその証。海水を煮詰める間、及川さんは根気よくアクを取り続けます。いかに雑味を取り除けるか。それが塩の味を左右するからです。「料理人が出汁をひくときだって、アクを取りきらないといい出汁になんない。それと理屈は同じ。雑味をすべて取りきるつもりで、丁寧にやります。そこに塩のうまみを追求している」
三日間かけて濃い塩水が出来上がったら、火を止めて一晩冷まし、仕上げの釜へ。さらに半日ほど煮詰め、最後に滅菌乾燥を施すと、ついに『塩竃の藻塩』の完成です。最初から最後まで手造りで炊き上がった塩は、まろやかでかどのない、やさしい味わい。塩釜の海の恵みに満ちた味です。サラサラとした粒状の藻塩は天ぷらにかけていただくのが及川さんのおすすめ。一方、サクサクの食感が楽しめる結晶状の藻塩も商品化されており、こちらは焼き肉にのせると絶品なのだとか。
手間も時間もかかる作業に、「塩造りは儲からないよ」と及川さん。それでも、手塩にかけた味は地元の方々や料理人たちに愛され、塩釜の食文化に彩りを添えています。中にはこの藻塩に惚れ込んで塩釜に店を構えたチョコレート専門店も。地域の活性化を目指した取り組みはしっかりと実を結んできました。藻塩を使う飲食店は、仙台市内など塩釜の外にも広がりを見せています。当製麺所もそのひとつ。手延べうどん『青葉の恋』や『涼か』、麺菓子などに及川さんが造る藻塩を使い、他にはない味わいを生み出すことができました。
土地の歴史をつなぎ、味をつなぎ、食の担い手の新たな縁をつなぐ『塩竈の藻塩』。それを支える造り手の深い愛情と、おいしさを追求する姿勢は、当製麺所が麺造りにかける想いにも重なります。「俺、塩大好きなんだよ」と笑う及川さんの姿は、ものづくりの原点を感じさせてくれました。「温度も湿度も毎日ちがう。塩は五感で造るしかない」と語る及川さん。
東日本大震災では大きな被害を受けながらも二ヶ月で製造を再開。塩造りの煙は「復興ののろし」と言われた。
麺や文左 登米本店 春のお品書き
南三陸産しらうお・山菜の天ぷらと手延べうどん『青葉の恋』
『青葉の恋と南三陸産しらうおのかきあげ御膳』
2,000 円税抜き(税込み2,200 円)
春の味覚しらうお・山菜の天ぷらと、宮城産の原料のみを使用した手延べ麺『青葉の恋』のセット。美しい青葉色が映えるうどんは、なめらかな食感とつるっとしたのど越しが人気。目も舌も喜ばせてくれるこだわりの麺を、旬の天ぷらとともにお楽しみください。春の色は
わきてそれともなかりけり
煙ぞかすむ 塩釡の浦
‒ 正三位知家 新後拾遺集‒
青葉色のうどんと旬の天ぷらで味わう
宮城の海と山の恵み木々の新芽。蕾ふくらむ花々。そこかしこで見つける淡い彩りに、近づく春を感じる季節がやってきました。藤原知家によるこの歌は、藻塩焼きの煙に霞む塩釜湾の春の情景を詠ったもの。その美しさに、「春の色は特別にどの色という決まりはなかったのだ」と気付く心情を描いています。ここに詠われるように、春の色はその土地の風土を映しだすものなのかもしれません。二階堂製麺所の直営レストラン『麺や文左 登米本店』から眺める景色も、春の訪れとともに一日一日その様を変えています。青々とした庭の芝生と、その向こうに広がる青麦畑は、春から初夏にかけての当店自慢の風景。季節の色彩をまとった登米の里で、皆さまのご来店をお待ちしています。
この春、当店では美しい青葉色にのせて旬の味覚をお届けします。手延べ麺『青葉の恋』は透き通るような白に緑の縞模様が映える、目にも鮮やかな手延べうどん。茹でたてを冷水できゅっとしめた麺はつややかでまるで飴細工のよう。カツオとサバの出汁を合わせたつゆにつけて、つるつるっといただけば、なめらかな食感とほどよいコシ、旨みの強い出汁つゆの風味が絡み合い、もうひと口、またひと口と箸が進みます。
地域の優れた食材を使い、宮城のすばらしさを知ってほしいという思いから生まれた『青菜の恋』。原材料はすべて宮城県産にこだわりました。小麦は登米豊里でも栽培されている県内産『あおばの恋』。県の奨励品種となっている良質な小麦です。うどん造りに欠かせない塩はミネラル豊富な塩釜の藻塩。そこに気仙沼産の桑の葉を練り込み、青葉色と白のストライプが美しい麺に仕上げました。
さっぱりとしたうどんに合わせていただくのは、山海の幸を一皿で楽しめる旬の天ぷらの盛り合わせ。海から届くのは南三陸産しらうおです。二〜四月に漁の最盛期を迎えるしらうおは、春を告げる魚といわれます。当店では登米から東へ約三十キロの歌津や志津川で水揚げされた新鮮なしらうおをカラッと揚げてご提供します。南三陸の海が育んだ栄養たっぷりのしらうおの旨みを、サクサクの衣の食感とともにお楽しみください。山の恵みは季節の山菜。タラの芽、こごみ、ウド、こしあぶら、ふきのとうなど、その日一番おいしい山菜をご用意します。冷んやりつるつるの手延べうどんと、旬の素材を使った揚げたての天ぷらで、この季節だけの味わいをご堪能ください。
麺や文左 登米本店
2011年、震災の年に地域の憩いの場を目指してオープンしました。街道の麺茶屋として137年前に創業した当時からのポリシーを体現する当店。地域のお客さまのふれあいの場づくりがコンセプトです。眼前に畑を望む広々とした借景も自慢。ご家族やご友人と、時間を忘れてゆっくりとおくつろぎください。
●営業時間
昼11:00~15:00(L.O.14:00)
夜17:30~22:00(L.O.21:00)
※営業時間については、日によって変更になる場合がございます。
●定休日
木曜
※水曜と日曜は昼のみの営業
※営業時間については変更になる場合がございます。
●TEL
0220-29-7227
半生手延べ太麺
花つるりん
贅沢なまぐろ出汁でいただく一番人気の定番手延べうどん
桜色のパッケージの中には、やや細めの上品なうどん。手延べならではの長い麺をくるくると巻いたその姿は、かわいらしい春の花を思わせます。今回ご紹介するのは、二階堂製麺所を代表する半生手巻き手延べうどん『花つるりん』。発売以来、不動の人気を誇る当商品は、もちもちの歯ごたえと、つるっとしたのど越しが特徴です。つるつる食感の秘密は麺に練り込んだ天然コラーゲン。こだわりの原料で作りあげた生地を、時間と手間をかけて熟成させながら少しずつ延ばしていくことで、しっかりとしたコシのある麺が出来上がります。温かくても冷たくても美味しい『花つるりん』。美味しさを際立たせるには、茹でた麺を冷水でしっかりもみ洗いするのがポイントです。温かい麺としていただくときにはもう一度熱湯をくぐらせて熱々でお召しあがりください。麺の美しい透明感と絹のようになめらかな食感は、一度味わったお客さまの心を掴んで離しません。
つややかなうどんに合わせてお試しいただきたいのが、まぐろ出汁。当製麵所の特製つゆに、追い出汁としてご利用ください。鹿児島県、静岡県産まぐろの花削り節を使用した出汁はあっさりとしたやさしい味わい。雑味のないまろやかな旨みが、うどん本来の風味を引き立てます。削りたての香りと味わいが生きた深みのある美味しさを出汁パックで手軽にご堪能いただけます。
いつもより贅沢な美味しさは、春のご挨拶やお祝いの品としてもおすすめです。一人前の麺とまぐろ出汁、つゆ、七味をギフトボックスに詰めた『逸杯の贈りもの』は大切な方やお世話になった方へのさりげないギフトにぴったり。新たな一歩を踏み出す季節に想いを届ける贈り物としてぜひご利用ください。アレルゲン:一部に小麦・ごま・大豆・さば・ゼラチンを含む
賞味期限:製造から120日
保存方法:直射日光、高温多湿を避けて保存してください。
温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第五回
巻き作業
手延べ麺は「延ばし工程」前に、「細目」という工程を段階的に行って麺を細くしていきます。当製麺所では一回目を「小巻き(細目作業)」、二回目を「こなし」と呼びます。うどんの原料である小麦粉には、細長い「グルテニン」と粒状の「グリアジン」という二つのタンパク質があり、それに加水して「練る」ことで「グルテン」になり、麺の「コシ」の素地になります。特にグルテニンを伸ばすには強い力が必要。いきなり「延ばす」のではなく、せっかく生成されたグルテンの複雑な組織を残すため、少しずつ細くするのです。当製麺所では「こなし」を「細目熟成」とも呼び、表面に乾燥を防ぐために改めて油を塗りつつ、最終的に6ミリ程度の細さにして寝かせ、次の「延ばし工程」に備えます。
グルテンの組織の間にデンプンが入り「コシ」になります。
お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
店長 千田 健一
オープン当初から店長を務めています。この10 年で地
元の皆様をはじめ、遠方から足を運んでくださるお客様
も増えました。なによりうれしいのは「おいしい」の声。
これからも食を通じて地域に恩返しができればと思って
います。ご来店の際は気軽にお声がけください。BUNZA 仙台店
ホールスタッフ 川上 由美子
開店から2年間、ホールを担当しております。昨今のコロナ禍でお客様の足は遠のいておりますが、Instagramの投稿を見てご来店されるお客様もいて、うれしく感じております。県のコロナ対策認証点としてしっかりと対策をして、皆様のご来店をお待ちしております。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.5 2022年 春号】2022年3月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集:株式会社コミューナ デザイン:小林知博 取材・文:門馬祥子、寺崎靖子 撮影:佐藤正宏、千葉浩幸、金谷竜真
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