二階堂製麺所だより
YUI 2021 WINTER
ゆい Vol.4
結う人をめぐる旅
第四回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人とのつながりや想いが結ばれて生まれる創造性を大切にしています。地域資源を使った食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが、関係性を“結わえる人々”をご紹介。
今回は宮城を代表する伝統野菜、冬に旬を迎える香り豊かなせりの生産農家を訪ねました。自宅の目の前にあるせり田で観音寺せりの生産を続ける木村寿さん。
80歳を超えるがもちろん現役だ。
宮城の大地と伏流水が育んだ日本原産の伝統野菜
「せり」の魅力。
春の七草の一つであるせりは、三つ葉や蕗、うど、自然薯などと並び数少ない日本原産の野菜です。宮城県はせりの生産が盛んで、収穫量は全国一位。全国収穫量の35%以上を占め、『仙台せり』というブランドで東北を中心に全国各地の市場へ出荷されています。県内で主に生産されているせりは、名取の『仙台せり』、石巻·河北地域の『河北せり』、そして登米の『観音寺せり』の三種。名取では、50を超える生産者が20ヘクタールの圃場で大規模生産。石巻·河北では、20数名の生産者が8ヘクタールほどを、そして登米の観音寺では、5名の生産者が20アールの圃場で生産しています。
仙台の郷土料理としてせり鍋人気に火がつき十数年。具材を引き算し、主役としてせりを引き立てたせり鍋を仙台市内の飲食店に提案し熱心にアプローチしたのは、代々名取のせり農家である三浦隆弘さんでした。「独自の有機農法でせりの根がやわらかく美味しくなりました。それをとにかくシンプルに味わって欲しくて。県外に出荷することが多かったのですが、仙台の人に新鮮な地元産のせりをもっと食べて欲しかった」と笑います。郷土料理としてせり鍋が定番となった今、全国から美味しいせりを求めて直接注文も絶えません。そして口コミで広がったせり鍋人気は仙台市内にとどまらず、宮城の冬の味覚の代表格になりつつあります。
一方、登米市の観音寺地区に第三の小さな生産地があります。ここで収穫された『観音寺せり』は、小売店に並ぶことはなく、飲食店で出会うことも叶いません。そのわずかな生産量から 幻のせり ともいわれます。二階堂製麺所ではこれまでに『仙台せり』はもちろん、『河北せり』を使ったメニューをご提案して参りましたが、この冬初めて特別に『観音寺せり』をお譲りいただき、わずかながらの限定メニューをご用意できることになりました。
宮城県内の主なせり産地。地下水源が豊富なため県内全域で生産が盛んです。県内の作付面積でみると、名取がほぼ7割、河北がほぼ3割を占めており、登米はごくわずか。希少な観音寺せりが持つ野趣溢れる味わい。
時を超え在来種を今につなぐ。木村寿さんは『観音寺せり』の水源の井戸を持つ木村家に生を受けました。『観音寺せり』の始まりは伝説として語り継がれます。弘法大師が全国を旅する途中、この地域に立ち寄り、水を飲ませて欲しいと頼んだところ、水を汲みに行った村の人がなかなか帰ってこない。「ずいぶんと遠くまで行ったようだ。水で不便をしている土地なのだな」と、水をもらったお礼に手にした錫杖でトン、と地面を突き井戸を授けたそう。その井戸水で薬草のせりを栽培するように告げたと伝わります。木村家の井戸·弘法水でしか育たないと言われる『観音寺せり』。木村さんは代々伝わるせりの在来種を大切に今に繋いでいます。
いわばせり天国の宮城であっても手に入らないとされる『観音寺せり』。収穫量は他の産地に比べてほんのわずか。その味といえば、「歯ごたえと香りが違う」と感想をもらうことが多いそう。せり人気の高まりに比例して、 幻のせり の噂は遠くまで響くようになりましたが、限られたお得意さまやご近所に配るとあっという間に在庫切れ、新規取引はもちろん大口で卸す量を作っていないのです。
一区画が小ぢんまりとした観音寺のせり田は、昔ながらのサイズ。小さな田んぼには農機が入らず、ほとんどが手作業です。「登米の畜産家から手に入る有機堆肥での土壌づくり、種ぜりからの芽出し、定植、収穫、選別、水洗い、結束と作業のほとんどが昔ながらの手作業で、特に忙しくなる年末は夜中までお母さんと二人で協力してやっています。田んぼ作業は私一人で。でも苦労だとは思わないよ。毎年作ったものを喜んでもらえることが嬉しいから」と木村さんは目を細めます。
中国大陸から伝来した野菜が多い中、日本で生まれたせりは四百年以上も前から県内各地の豊かな風土に守られ、しっかりとこの地で固有の在来種として根付きました。栗駒山や北上山系、そして名取川由来のミネラルたっぷりの伏流水が、香り高く味の濃いせりを生み出しているのです。春の七草の筆頭で、寒い季節に免疫力を高めてくれる栄養たっぷりのせり。せり田では、今年も収穫の最盛期を迎えようとしています。宮城の大地で脈々と息づいた古来の滋味が今年も多くの人の喜ばせてくれそうです。夏前に有機堆肥を撒き、土壌を豊かにしたせり田で無農薬栽培を続けている。
水草が生えているのがその証拠。
収穫は、冬の「根せり」と天ぷらやおひたしにする春の「葉せり」の年2回。
弘法大師が授けたと伝わる木村家の井戸からは清らかな水が湧き出でる。
観音寺せり鍋セット
5,000円税抜き(税込み5,400円)
観音寺せり、むらさき2食、文左つゆ3袋、鴨肉2人前、舞茸、赤乃七味1個
限定15セット。予約販売、売り切れ次第終了。発送は12月20日ごろより。
レストランBUNZA
仙台牛 牛すき手延べうどん
『牛すき手延べうどん 仙台牛サーロイン100g』4,400 円税抜き(税込み4,840 円)
仙台牛の最高級部位を贅沢にすき焼きしていただきます。手延べの太麺『むらさき』を使用し、牛の旨みが染み出した割下で煮込みます。泡立てた蔵王の滋養卵が麺にもよく絡み、クリーミーでマイルドにいただけます。夕されば 衣手さむし みよしのの
吉野の山に み雪降るらし
-よみ人知らず 古今和歌集-
身も心も温める
仙台牛と手延べ麺の妙。つい先日まで美しく色づいていた木々が落葉し、鼻先や耳、指先が冬のキンと冷たい空気に触れたとき、本格的な冬の到来を感じます。
よみ人知らずのこの歌は、「夕方になると袖のあたりが冷えてくる。きっと吉野山では雪が降っているのだろう」と、厳しい寒さの始まりを感じる心情を歌ったものです。
仙台の街なかにある二階堂製麺所の直営レストラン『レストランBUNZA』の冬のいち押しメニューは、仙台牛の牛すき手延べうどんです。宮城県内で出荷される年間2万頭の食肉のうち、5等級以上の最高ランクの黒毛和牛にのみ与えられる仙台牛という名の称号。仙台店の看板メニューでもある『牛すき手延べうどん』は、その良質な仙台牛と自社製手延べ麺を掛け合わせた大人気のシリーズメニューです。
テーブルには、南部鉄器の鉄鍋とサシの入りも美しい仙台牛のサーロイン、厳選した季節の野菜に手延べの太麺『むらさき』、そして牛すきに欠かせない卵は蔵王の滋養卵を泡立ててご提供いたします。まずは鉄鍋で甘さをたたえた玉ねぎを炒め、特製の割下を注ぎ入れます。長ネギや焼き豆腐、まいたけ、ごぼう、せりなどお好みの野菜を入れつつ、最初のサーロインを割下へ。仙台牛のまろやかな旨みと脂が溶け出し、ほかの具材に脂がうつることでさらに美味しくなります。お好みでさっと火を通し、ホイップ状の卵をまとわせて召し上がっていただきます。食べればわかる上質な甘みと濃い旨みは、宮城の豊かな自然が育んだ味です。合わせる割下は、濃口醤油にはちみつでコクを出した返しを使い、白ワインの酸味で醤油の風味を抑えたもの。煮込んでもしつこくならず、最後まですっきりといただける特製の割下です。仙台牛のだしが染み出したところに手延べ麺の『むらさき』を入れ、ひと煮立ちさせ少し色が変われば食べごろです。煮込んでもしっかりと小麦の風味を感じられ、弾力が活きる太麺。つゆをしっかり染みさせてお召し上がりください。付け添えの黒七味で変化をつければ、また違った美味しさが感じられます。
オープン時からの大人気メニュー『牛すき 手延べうどん』シリーズは、牛肉に仙台牛サーロインのほか、仙台黒毛和牛のサーロイン、仙台牛切り落としを使ったお値ごろなメニューもご用意しております。お一人さまで贅沢にいただくもよし、久しぶりのご会食で賑やかにいただくもよし。自粛解禁の折、しばらくぶりの外食にご友人を連れ出してはいかがでしょう。『レストランBUNZA』では、一年の終わりに華を添える年の瀬の楽しい食空間をご用意してお待ちしております。レストランBUNZA
2020年、長い構想期間を経て仙台・一番町にオープンした二階堂製麺所の直営2号店。
日本の麺文化・食文化を世界へ伝える発信地というコンセプトで作られました。ホテルのような洗練された空間で、仙台牛を使った手延べ麺メニュー、登米の郷土料理はっとなど、多様なメニューをご用意しております。アンテナショップも併設。
●営業時間
併設麺販売場 11:00~19:00
レストラン
ランチ 11:30~15:00(L.O.14:30)
ディナー 17:00~22:00(フードL.O.21:00、ドリンクL.O.21:30)
※日曜日はランチのみの営業となります。
●定休日
不定休
●TEL
022-797-3835
※コロナ感染状況により営業時間に変更がございます。
詳しくはHPをご覧いただくか、店舗までお問い合わせください。
半生手延べ太麺
むらさき
煮込むほどに美味しくなる太麺のコシの強さをご堪能あれ
寒い季節になると、体が温まるあったかい汁物が食べたくなるもの。この時季には、もちもち食感で煮込みにすると美味しい半生手延べ太麺の『むらさき』がおすすめです。当製麺所で造られている最も太い手延べ麺がこの『むらさき』。世界中から厳選したオーストラリア産小麦を使い、小麦の本来のしっかりとした風味が感じられます。特徴はなんといってもそのコシと弾力。「ねかせ」、「のばし」、「撚り」の工程を何度も繰り返すことによって生まれたこの弾力は、長く煮込んでも煮崩れしにくく、煮込むほどにつゆを含みもちもちとした食感へ変化。さらに美味しくいただけるのです。
味わい方はそれぞれ。旬のせり鍋と一緒にいただくのもよし、お好みの汁物に入れるも、鍋のシメにもよし。『レストランBUNZA』の看板メニューのように牛肉と合わせて牛すきうどんにするのもまたよし。つゆを吸っても伸びないのが手延べ麺のいいところです。シンプルに具材を入れずに出汁つゆだけでいただく場合には、日高昆布でとった当製麺所特製つゆがおすすめ。昆布のしっかりとした味が小麦の風味を引き立て、コシの強さや食感の良さを感じることができます。冷やうどんでいただくと、その美味しさがなおわかりやすいでしょう。
当製麺所の半生手延べ麺の中でもっとも歴史があるこの太麺は、先代の「手延べ麺」に対する熱い思いが結実して生まれたもの。発売から早三十年。冬の寒さが厳しい東北の地で生まれたこの太麺は、当地の冬の郷土料理との相性が良く煮込み料理にうってつけ。製造時、一度乾燥させた麺に再び水分を含ませる独自の戻し製法によって、熟成度が高まり旨みをしっかりと閉じ込めています。他にはないこの歯応えをぜひお楽しみください。
温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第四回
撚り
手延べ麺には一見すると気づかない、隠れた特徴があります。その代表が撚り。まっすぐな麺の繊維にひねりを与えると、食感が強くなり麺のコシが変わります。また撚りを加えることで麺の伸びも良くなり、後工程の延ばしの際に麺が切れにくくなるため、手延べ麺にとってはとても基本的な技法です。
実際の工程上は太い麺体を巻き形成する時、そして掛巻に細い麺を掛ける際に、この撚りが行われています。特に掛巻については、麺の素材や細さに応じて撚り器を調整する必要があります。当製麺所の夏の麺『涼か』は特に細い麺のため製造が難しく、それを可能にするのがこの微妙な撚りの調製に依る部分も大きいのです。撚り機での撚り具合とローラーの張り具合を常に調整する。
巻きの間も、少しずつ撚りをかけて麺の繊維を強くしていく。
お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
料理人 山川 一久
文左オープン当初から10年間料理人を務めています。最近はコース料理を頼まれるお客さまが増えました。普段私は調理場にいるため、お客さまと顔を合わせる機会は少ないですが、料理人として、衛生面や美味しさなど基本の心を大切に日々料理に向き合っています。
BUNZA 仙台店
ホールスタッフ 小川 ヨシ子
入社よりちょうど1年。少し前にワインのサービスを習得し、自信を持ってご提供できるようになりました。お客さまの会話の邪魔をせず、心地よく感じていただける接客を目指しています。私の接客で「また来よう」と思っていただけたらうれしいです。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.4 2021年 冬号】2021年12月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集:株式会社コミューナ デザイン:小林知博 取材・文:門馬祥子 撮影:佐藤正宏、千葉浩幸、金谷竜真
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