二階堂製麺所だより
YUI 2021 AUTUMN
ゆい Vol.3
結う人をめぐる旅
第三回
二階堂製麺所のものづくりは、人と人とのつながりや想いが結ばれて生まれる創造性を大切にしています。地域資源を使った食文化を世界へ広めることを目標にする私たちが、関係性を“結わえる人々”をご紹介。
今回は県内一の穀倉地帯である登米市で環境に配慮した米づくりを担う生産者を訪ねました。「消費者の方には、私たち登米の環境に配慮する農業を食べ支えていただければ、嬉しいですね」と後藤さん。挑戦は続きます。
米づくりは、いつも自然とともにある。
自然環境に配慮することが持続的な農業への道標。宮城の北東部に位置する登米市は、中央を迫川、やや東側に雄大な北上川が貫き、北上川を境に東には丘陵地帯、西には平坦な水田地帯が広がります。広大な登米耕土は肥沃で、県内随一の米の生産量を誇る穀倉地帯です。この地の米づくりの歴史、藩政時代にさかのぼります。伊達藩が低湿地帯の開墾を奨励したことで作付面積が拡大し、北上川や迫川の海運を利用し石巻港から江戸に多くの米を供給しました。江戸廻米を運ぶ水運とともに栄え、江戸に米が登ることから「登米」の名が付いたと言われています。
また、米山、米川、米谷など、米が付く地名が今も多く残り、特に米づくりが盛んな豊里地区は、迫川と北上川の堤防に挟まれたかつての湿地が江戸時代の大規模な開墾により美田となり「豊里」という名に。米づくりとは、縁の深い土地柄なのです。
さて、今回お話を伺ったのは、南方地区で十四ヘクタール(東京ドームおよそ三つ分)もの水田を営農する大規模農家の後藤輝彦さん。昨年から販売されている宮城の新品種『だて正夢』を生産しています。当製麺所では、年明けの招福うどんに一部『だて正夢』を使用しました。「うちは、大きく分けて『ひとめぼれ』を八割、『だて正夢』を二割、ほかに飲食チェーン店の契約米、家畜の飼料用米を作っています。
中でも『ひとめぼれ』の三ヘクタール分は、農薬と化学肥料を全く使用しない有機JAS栽培をしています」。登米の米づくりの最大の特徴は、環境への配慮。農薬や化学肥料をできるだけ少なくして栽培する環境保全米 の生産に取り組み、生産段階での環境へ配慮はもちろん、消費者には買って食べてもらうことで環境を守ってもらうというコンセプトで、生産者と消費者が連携して環境を守ることを目指しています。登米は今や日本有数の特別栽培米 の産地となり、田んぼにはカエルはもちろん、カブトエビなど今や珍しい生き物も現れる、昔ながらの美しい自然環境を保持しています※1 環境保全米/赤とんぼや蛍が舞い、どじょうやカエルなどの生き物が住む田んぼで大切に生産された米。田んぼの地力を高め、農薬や化学肥
料の使用を従来の半分以下という基準に従い、環境保全を重視して作られる。宮城で生まれた新基準であり全国的に注目を集める。
※2 特別栽培米/農水省のガイドラインに則り栽培された農薬や化学肥料をある一定量より少なく使用した米のこと。遠くに望む栗駒山が美しい田植えの風景。かつては湿地帯だったこの土地も昭和の時代に大規模な灌漑工事が行われました。
登米の一部の田んぼでは、コンバイン全盛の今でも稲穂を天日干しにする「ほんにょ」が立てられています。
昔から変わらない登米の秋の風物詩です。
食べるたびに、元気に、健康になれる米。
循環型の米づくりで地域の未来を明るく照らす。「登米は畜産が盛んなので、質の良い堆肥が手に入ります。化学成分を使用せず、家畜由来の有機堆肥が使えるのです。牛糞と稲わらを混ぜて発酵させた堆肥を田植え前の水田に混ぜて田起こしをして土の地力を高めます。稲刈りが終わると稲わらやもみ殻を牧場へ送り、畜舎で使ってもらいます。稲作と畜産が連携する耕畜連携という仕組みを使って、互いに循環型農業を実現しているんです」と後藤さん。また、農薬を減らすということは、他の方法で除草しなればなりません。「防草用の黒い紙を地面に張りつけてその上から稲を植えたり、水を濁らせて雑草の繁殖を抑えたり、乗用タイプの除草機を使ったり、アイガモに草を食べてもらったり。手間暇はかかりますが、登米の米農家はそれが当たり前と思ってやっていますよ」と後藤さんは続けます。
後藤さんが就農したのは十二年前。「それまでは土木コンサル会社で会社員をしていましたが、父親が急病で倒れたことをきっかけに農家を継ぐことにしました」。お父様の仕事ぶりを間近で見てきたとはいえ、専業農家として独立するのは大変なご苦労があったはずです。「登米の周りの方は人柄が良いんです。誰かに相談すると対処法を教えてもらえました。南方地区には水稲部会という九十名ほどの米農家の連絡会があって、栽培方法などについての講習会もしています。私は副部会長をしていますが、部会長をはじめとして良い米を作ろうと追求する仲間がいるという心強さも感じます」
日本の美しい田園風景や生き物が共生する環境を守りながら、丁寧に手間暇をかけて美味しい米を作る米農家の方々の挑戦には頭が下がります。「美味しいものを作るために手間をかけることをいとわない」という考えは、当製麺所にも伝わる大切なコンセプト。登米の食のものづくりを根本で支える米農家の皆さんの挑戦を私たちも心から応援し、学びたいと思いました。後藤さんの育てる『だて正夢』。
ねばりがありモチモチの食感が特徴の新品種は、10月初旬に刈り取りの予定です。
今や珍しい水生生物も顔を出すという自然に優しい登米の水田。
有機堆肥でしっかりと力を蓄えています。
見渡す限り広大な水田が続く。後藤さんの水田は、東京ドームおよそ3つ分。ほとんどを奥様と二人三脚で営農しているそう。
麺や文左 登米本店 1 0 周年 秋のお品書き
きのこうどん 文左風
『きのこうどん 文左風』
1,500 円税抜き(税込み1,650 円)
舞茸やしめじ、しいたけなど旬のきのこをふんだんに使ったこの秋一押しのうどん。
最後まで温かく召し上がっていただけるようあんかけで仕上げました。
この他、季節のきのこうどん鍋(2,200 円税抜き(税込み2,420 円))もおすすめです。昨日こそ 早苗とりしか
いつの間に 稲葉そよぎて 秋風の吹く-よみ人知らず 古今和歌集-
震災の年にオープンしてから十年。
文左が目指すのは、地域への恩返し。高い空に秋の雲がたなびき、田んぼは見渡す限り金色に色づく美しい登米の秋。稲穂は実り、頭を垂れ、刈り取りの時期を今か今かと待ちます。
この歌は、「昨日田植えをしたばかりの気がするのに、いつの間にか稲が秋風に吹かれる季節になったな」という季節の移ろいを歌ったもの。時の流れは、いつの時代もあっという間に感じられるものなのでしょう。『麺や文左』は、十年前の2011年10月、震災の半年後、登米にオープンいたしました。田園を臨むとある邸宅を改装し、雰囲気の異なる個室をいくつも備えるレストランへと生まれ変わりました。オープンのきっかけは3月の東日本大震災。「傷ついた心を癒したい。食を通して笑顔になってもらいたい」。私たちはただ、その一心でオープンの準備を進めました。当時から大切にしているのは、地域食材の活用です。板倉農産様の米、伊豆沼農産様の豚肉、菅原農園様のベビーリーフなど、登米でこだわりを持って作られている産品を地域の方に味わっていただけるように、メニューに組み込みました。生産農家さんとのつながりを大切にしてきましたが、これからも関係性をさらに強固なものにし、地域とともに登米の食文化を発信して参ります。また、私たちの活動としては、子どもたちに食べることの大切さや地域の食文化、生産活動を伝える食育も欠かせません。人間の根源的な楽しみを登米の地域食材で伝えていきたいと思います。さらに、芸術や文化の発信拠点としての役割を担えればと考えます。音楽や演芸のイベントを開催し、地元の美味しい食材で作った驚きのある料理とともに、お客さまに喜んでいただける食の空間をこれからもご提供いたします。
さて、この秋の一押しメニューは、『きのこうどん 文左風』をご用意しています。舞茸やしめじ、しいたけやえのきなど、秋山の実りをふんだんに盛り込み、かつおと鶏ガラのスープでほどよく絡むあんかけにしました。秋の滋味をぜひお召し上がりください。土を耕し、種を蒔き、芽を育んだこの十年。金色に輝く実りの時期はまだ先ですが、この先の十年、さらに二十年とこの登米地域とともに歩み、食を通じて幸せをお届けしたいと思っています。
麺や文左 登米本店
開業10 周年を記念して、2021年12 月に『10 周年クリスマススペシャルジャズコンサート』の開催を予定しております。10 年間の感謝の気持ちを込めて、特別な夜を素敵な音楽と美味しい料理、心尽くしのおもてなしで皆様をお迎えいたします。ぜひ麺や文左で楽しいひとときを。
※詳細は決まり次第ご案内いたします。
●営業時間
昼11:00~15:00(L.O.14:00)
夜17:30~22:00(L.O.21:00)
※営業時間については、日によって変更になる場合がございます。
●定休日
木曜
水曜と日曜は昼のみの営業
●TEL
0220-29-7227
登米の郷土料理
はっと
郷土料理を商品化して18年
懐かしの味をお手軽にどうぞ。春から放送中のNHKの連続ドラマ小説『おかえりモネ』の舞台となっている我がまち・登米。ドラマ内で取り上げられ、注目を集めた郷土料理が『はっと』です。登米は昔から稲作が盛んでしたが、その多くは年貢や献上米として仙台へ運ばれて行きました。お米が貴重であった時代、登米の家庭では小
麦粉を練ってうどんにしたり、『はっと』にしたりして食べていたのです。名前のいわれは、あまりに美味しくて(食べ過ぎは)「ご法度」だから。小麦粉を練って団子状にしたものを汁物で食べる料理の代表的なものはすいとんですが、宮城北部で食べられる『はっと』は、小さな塊を指で引き伸ばしなが
ら薄くちぎって平麺状にしたもの。形状は盛岡で食べられる『ひっつみ』や『とってなげ』に似ていますが、食べ方のバリエーションが豊富なのが『はっと』の特徴でもあります。かぼちゃをつぶしたあんの中に『はっと』を入れたり、あずきと一緒に食べたりと、ちょっとした甘味としていただくこともあるのです。
さて、二階堂製麺所の『はっと』は発売して18年が経ちます。当時、郷土料理を商品化することは一般的ではありませんでしたが、「家庭の味を残したい、気軽に食べられるようにしたい」という会長の強い想いによって実現しました。商品化を目指して研究し、採用したのは、四国のメーカーにてオーダーメイドで作った『はっと』の自動製麺機。今も現役で稼働しています。原料には宮城県産小麦粉を使用し、付け添えの醤油のさらっとしたクセのないスープが『はっと』のほどよい弾力と小麦の風味を引き立てます。なめらかな舌ざわりとほどよいコシが、今も多くのファンを惹きつけてやまない理由です。ぜひ一度、登米の郷土の味を味わってみてください。温故創新
二階堂製麺所の手延べ製法 第三回
イタギ
二階堂製麺所の麺の最大の特徴はその「食感」にありますが、これは「イタギ」と呼ばれる複合作業に寄るところが大きいと言われます。その語源は「板切り」ですが、圧延された麺生地を単に麺帯に切り分けるだけではなく、麺帯をさらに重ねて「複合」まで行うのが本来の「イタギ」。当製麺所ではそこからさらに2回「折り畳み」、六層を積層します。
実はこの「六層構造」、令和元年になって新たに確立した技法です。この製法の確立により、麺表層の硬さと中の柔らかさが両立した食感に磨きがかかりました。もはや「不変の技術」と思われたイタギにも、日進月歩の探求。いまだに続く「温故創新」の精神を垣間見る開発エピソードです。お客様を迎えるスタッフをご紹介します。
麺や文左 登米本店
自動芝刈り機 草刈り文左くん
入社6 年目、スウェーデン出身。当製麺所初の北欧からの採用です。主な業務は芝刈りで1日8 時間しっかり働きます。雨の日も風の日も、毎日淡々と業務をこなすエリート。仕事に対する姿勢は見習うべし。たまに不機嫌になると止まったり、隣の畑に突っ込んだりします。
BUNZA 仙台店
販売· ウェブ担当 柏木 考介
二階堂製麺所のアンテナショップで主に物販を担当。入社より約1 年、日々新しいことを学んでいます。外観の雰囲気から敷居を高く感じる方もいるかもしれませんが、スタッフ一同、心地良い空間と対応を心がけております。ぜひお気軽にご来店いただきたいです。
当製麺所は、明治18年に初代・文左衛門が始めた街道沿いの小さな麺茶屋が興り。
以来135年以上に亘り、製麺業を中心に食の専門家として、ものづくりの文化を受け継ぎ、さらなる美味しさを追求しています。
【ゆい Vol.3 2021年 秋号】2021年9月初旬発行
発行元:マルニ食品株式会社 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1
編集:株式会社コミューナ デザイン:小林知博 取材・文:門馬祥子 撮影:佐藤正宏、千葉浩幸、金谷竜真
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